37.西の崖2
反射鏡から放たれた光は蒼穹の中を一直線に突き進み、輝ける道となって天空に描かれている。
イコとヨルダはその下に延びる崖上の回廊を駈け抜けた。
途中で影たちが現れることもなく、あっという間に回廊の曲がり角に差し掛かる。
曲がり角に聳える巨大な台座のような壁と、そこに置かれるに相応しい大きさを持った燭台にも見える台。その大きな燭台の上に飾られた巨大な玉は、空を真っ直ぐに突き進む光を受けて煌々とした輝きを放っている。
凝縮された光の更に奥へと視線を向けたイコは、そこに広がる光景を呆けたように見つめた。
そうなることを望み、そのためにすべき事を為し遂げ、きっとそうなっているだろうと確信にも似た気持ちを抱いていた――しかし、いざ目にすると信じられないもののように感じられてならないその光景にイコはただひたすら見入っていた。
東の反射鏡により、東側半面だけが輝いていた巨大な正門――それは今や、広大な一面を眩いばかりに輝かせている。
――これで、きっと、最後の。
無意識の内に呟かれようとした言葉は、音になる前に掻き消えてしまう。
不意に、イコの身体が一度だけ大きくふるえた。
奮えているのか。
震えているのか。
どちらだったのか、当の本人にもわからないまま、
「――ヨルダ、いこう」
至るべき正しき所だと信じる場所に向かって、少年は少女の手を引いて駆け出した。
崖上の回廊と城内を繋ぐ出入り口付近の外壁に掛けられた長い梯子を登り――もちろん、ヨルダも呼び――城壁の内側へと入ると、中庭といくつもの跳ね橋を一望できるバルコニーへと出た。すぐにバルコニーに設置されているレバーを見つけるとそれを動かし、未だ引き上げられたままだった跳ね橋を下ろしてシャンデリアの部屋へと繋がる道を作り出す。
来た道を戻ってバルコニーから外壁へと出て長い梯子を下り、回廊から城内へと戻ったイコとヨルダは下ろされたばかりの跳ね橋を渡ってシャンデリアの部屋へ向かった。
東側から通った時は影たちが現れたが、今度は何事もなくシャンデリアの部屋の壁沿いの通路から坂道となった橋を下って、無事にシャンデリアの部屋を通り抜けることができた。
跳ね橋の並ぶ中庭も一気に駆け抜け、正門へと続く出入り口をくぐり抜ける。
そしてふたりはついに辿り着く。
光満ちる、その場所へ。
イコは何も知らなかった。
――知らないのは、イコだけだった。