30.ゴンドラ

 昇降機を降りるとそこは露台のようにひらけた一角の片隅だった。断崖から張り出した露台部分の周囲は背丈の低い壁のような手摺に囲われている。昇降機を降りてから正面に目を向けると、途中で建物一階分程の階段を下り崖沿いにまっすぐ延びる通路が続いていた。
 ただしその通路は、階段を下りた先の半面が、立ち並ぶアーチ状の柱に支えられ一段高くなった段に覆われていた。高い段の方が通路の内側、つまり崖に接して延びている。高い段を支える壁は階段を下りてすぐの所が壁ではなく背の高い柵になっているため、わずかながらも中の様子が窺えるのだが、生憎影に沈んでしまってよく見えない。高い段の下は上段を支える柱が立つ以外には吹き抜けになっており、下から仰ぎ見れば上の段はまるで通路に掛けられた屋根のようだ。屋根の掛かった部分より外側、何ものにも遮られない吹きさらしの通路は、階段を下りた先から手摺が消え失せ、通路と外を遮るものがなくなっていた。通路から一歩でも足を踏み外そうものなら、即座に崖下に落ちてしまう。
 また、高い段は露台の一角まで掛かっており、天井代わりの段の下、崖際奥に不思議なソファが置かれていた。
 露台周辺を見て回っていたイコは昇降機の傍に待たせていたヨルダの元に戻ると、少女の手を取り「いこう」と声を掛けた。
 まずは目の前に延びている道を進んでみなければ、先に何があるのか分からない。露台部分から階段を下り、イコはなるべく柱の内側――天井となった高い段の下を通るようにして通路を進んだ。
 真っ直ぐに伸びる通路の終着点は思いのほか早く訪れた。
 道は途中で途切れていたのだ。
 傍らの高い段より、ほんの少し長く続いた通路は、上の段を囲うように左――断崖に向かって折れ曲がっていた。通路に沿って曲がるとそこに岩壁はなく、鉄柵が道を遮っていた。両側は、上段より更に高い位置に設けられた小部屋のような足場――通路と呼ぶには短すぎる――を支える柱が壁となって右手側を埋め、左側には当然、上の段を支える壁がある。ただし、左側の壁も崖に近い一部が壁ではなく鉄柵になっている。どちらの鉄柵の向こう側も暗くてはっきりとは窺い知ることができない。
 本来ならここにはもうひとつの道が続いているはずだった。
 通路が折れ曲がる直前、まっすぐ進んだその先に数段の登り階段があったが、階段の先は崖下に落ちるしかない虚空が広がっている。
 数段の登り階段の意味は、ほんの少し顔を上げるだけでわかった。
 頭上――と言っても、跳んだところで指の先すら届かない距離を置いて、空高く引き上げられた跳ね橋の先端が見えた。跳ね橋を辿って視線を下げていけば、霧にかすんで見える程の距離の先に向こう側の通路がある。数段の上り階段は、本来この跳ね橋と通路を結ぶものだったのだ。
 しかしその跳ね橋も高く引き上げられ、向こうの通路へ渡ろうにも、跳ね橋の長さと同等の距離を跳び越えることはもちろんのこと、頭上に上げられた跳ね橋に飛移り登ることもできない。
 ――どうしよう。
 イコはもう一度、念入りに周囲を見回した。
 他に行けそうな場所と言えば高い段の上だが、通路をひと通り見回っても段に登る階段どころか梯子さえ見当たらなかった。
 引き上げられた跳ね橋の端までの高さに比べれば、上の段の高さはさほどでもない。もちろん、下の通路から跳んで壁の縁に手が届く高さでもないが、露台部分からであれば木箱くらいの高さの足場があれば届きそうに思う。ソファの置いてある露台部分に戻りながら、何か足場の代わりにできそうなものがあればいいのに、と諦め切れず周囲を見渡していたイコは、ふと思いついて一点を見つめた。
 それは、露台から通路へ至る階段近くの手摺だった。
 低い壁同然の手摺は厚みも充分にあり、上に立つこともできそうに見える。高い段にもっとも近い手摺は階段の所まで延びている。当然、手摺から高い段の縁までの距離は階段の幅と同じなるので、跳べない距離ではない。
 ――てすりにのぼれば、とどくかな?
 そう考えたイコはヨルダをソファで待たせると、改めて階段近くの手摺に近付いた。
 できるだけ手摺の端――階段傍近くから手摺に手を掛けて身体を持ち上げると、慎重に手摺の上に立ち上がった。
「よし、のぼれ……っ、わ!」
 少年の小柄な身体が風に吹かれて大きく揺らめいた。咄嗟に後ろ――露台側にやや体重を掛けるようにして、手摺から落ちるのを何とか堪える。
 手摺の上は、立つことはできたが人が歩くには狭すぎた。少しでもバランスを崩すと、身体が大きく泳いで手摺から落ちそうになってしまう。手をついて身体を支えられるようなものもない。しかも、露台と反対方向に落ちようものならそこには地面ではなく、海面が遥か下方にあるだけだ。
 手すりの上に立ったイコは、正面に高い段の壁が来るようにゆっくりと身体を動かした。
 ほんの少し動くだけでもバランスを崩してしまいそうになる足場の上では、危なすぎてとても助走をつけられない。
 イコは手摺の端まであと一歩という所で正面の壁を見据え、視線をやや上げると高い段の縁を視界に納めた。ぐっと膝を溜め、最後の一歩を思い切り踏み込むと壁に向かって高く跳躍する。
 軽やかさや優雅さとはまったく無縁のほとんど壁に衝突する勢いだったが、イコの手はかろうじて高い段の縁を掴んでいた。したたかに鼻を打ちつけた痛みに顔を顰めつつも、腕に力を籠めて身体を持ち上げよじ登る。
 まず上半身を壁の上に乗り上げ、段の上の様子を探りながら足を引き上げ――上の通路に登り切ったイコは、視界に真っ先に飛び込んできた目前に横たわる物に首を傾げた。
 崖沿いに延びる高い段の上の通路にはなぜかレールが走っていたのだ。
 イコが登ってきたのは高い段の端のほうに当たる。崖から向かって左には途中で通路が崩落した跡があり、本来この上段の通路は左に長く延びていたことをうかがわせた。レールを崩れた岩の一部が塞いでおり、そこがレールの始発――あるいは終着――地点になっていた。反対に、右奥に延びるレールはどこまでも続く道のようにまっすぐ延びている。
 また、レールの左側端には、梯子の掛かった背の高いやぐらが立っていた。しかし、近くに梯子を必要とする場所は見当たらない。梯子はまったくの虚空に向かってそびえている。
 イコは試しに登ってみたが、視線が上の通路に立っていたよりも高くなるだけだ。そもそも、今居る場所が断崖の通路という背後の崖を除けば大きく開けた場所である。わざわざやぐらに登って見渡す必要もなく見晴らしが良い。
 一体なんでこんな所に、と不思議に思いながら、イコは梯子を下りるとレール沿いに奥――跳ね橋がある方向へと進んだ。
 途中でアーチ型の柱の下をくぐり抜け、すぐにレールのもうひとつの終着点に辿りつく。否、千切れもせず止められたレールを見れば、こちら側こそが本当の始発・終着地点であることは瞭然である。レールが止められていたのは上段の通路もそこで終わっていたためだ。上の通路から下を覗けば、そこには飛び降りることができる高さを置いて下段の通路があった。反対に上を見上げると、ちょうど真下の通路で見上げた時と同じく、断崖から張り出すように建てられた小部屋が見える。しかしよくよく見てみると、その小部屋は周囲と完全に孤立していて、梯子も階段も見当たらない。
 ――どうやってあそこに行くんだろう?
 疑問に思ったイコだったが、すぐにこれまで何度も見かけてきたようにあの小部屋に続く道も崩れ落ちてしまったりしたのだろう、と納得した。
 じっと小部屋を見つめていると、高さはあるが、通路の端からの水平距離自体はさほどでもないことに気が付いた。イコはちらり、と背後――レールのもう片方の端に佇むやぐらに視線を向けた。
 ――せめて、梯子がこっちにあればよかったのに。
 やぐらの高さは上空の小部屋と同じくらいに見える。やぐらがここにあれば、それを足場にして小部屋に飛び移ることもできたかもしれない。
 しかし、ないものは仕方ない。
 もう一度下段の通路からよく見直そう、とイコは来た道を戻り始めた。もちろんその場から下段の通路に飛び降りても良かったのだが、多少なりとも苦労して登った場所だったのですぐに下りてしまうことがもったいないと思ったのだ。また、ヨルダを迎えにソファまで戻るつもりでもあったからどちらにしろ、戻る、という行動をとることに変わりはない。
「あーあ、うごけばいいのになぁ……」
 やがて目の前にやぐらが迫り、イコは諦め切れなくてすれ違いざま天に向かってそびえる梯子を往生際悪く引っ張り――
 ――ギィ。
「え」
 不動のものだと思っていたやぐらが、わずかではあったが確かに揺れる。かすかに聞こえた擦過音に惹かれて視線を落としたイコは、揺れと音の理由に気が付いた。
「あ」
 やぐらには車輪が付いていたのだ。
 つまり、とてもそうは見えなかったが、梯子の掛かっているやぐらは台車の一種のようだった。
 通路の真ん中を走るレールは、この変わったやぐらを動かすためのもの、ということらしい。
 イコは改めて背の高い台車に向き合うと、ちゃんと両手を付けて力いっぱい梯子付きの台車を押した。もちろん、レールの反対側まで運ぶためだ。
 骨組みだけとはいえ自分の背丈の何倍もの高さがある台車を運ぶことができるだろうか、と不安を覚えたイコだったが、一度動き始めてしまえばそれほどの苦もなくレールのもうひとつの端まで運ぶことができた。車輪でレールの上を走らせる分、木箱を引き摺るより容易いくらいだ。
 台車を運び終えるとイコは早速梯子を上った。頂上の足場に立ち小部屋に向き合うと、頭上にあった小部屋は同じ目線の高さにある。
 足場から小部屋まで跳び越えなければならない空間が空いていたが、イコは躊躇せずその距離を跳んだ。跳べる距離だと確信し、それはその通りだった。
 足から綺麗に着地――とはいかなかったが、上半身で小部屋の床にしがみつきよじ登る。
 小部屋にただひとつだけ存在していたレバーにイコの目が輝く。これだ、と確信したイコは迷わずレバーに手を掛け動かした。
 ――ゴウンッ!
 重々しい音とともに、音に惹かれて覗き込んだ視界の先で跳ね橋がゆっくりと降ろされていった。虚空に突き出た数段の階段に長く続く橋が架けられる。
「やったあ!」
 イコは歓声を上げると小部屋からレールの走る通路に向かって、ひらり、と飛び降りた。ダンッ、と大きな音を立てつつも何とか両足で着地すると、飛び降りたい勢いそのままにレールに沿って走り出した。一気に通路を駆け抜けると、先ほどまで高くそびえる台車が置かれていた上段の通路端から露台に飛び降りる。今度は先程よりも綺麗に着地できた。
 イコはすぐさま背後を振り返り、影に入っても翳ることを知らない少女に手を差し出した。
「ヨルダ、はしがおりたよ! いこう!」
 上から降ってきたイコに気付いたヨルダは、声を掛けるまでもなくイコに駆け寄ってくる。
 やや早歩きになりながらも露台から階段を降りて通路へ、そしてその先の橋に向かう。
 橋を渡るため、直前の階段に足をかけようと近付き――。
 ――その時だった。
 あれほどまでに吹きつけていた風が唐突に鳴りを潜め――空気が変わった。
 橋の手前、崖に向かって折れ曲がった通路の奥で、闇が沸き立った。同時に、暗い閃光が立ち上がり、真黒い大きな人影が形造られていく。
 イコはそれをはっきりと見ていたわけではない。ただ、目の端にちらりと不吉な色がちらつき、重苦しさが増した空気が纏わりつく、その感触が決断させた。
「――ヨルダ、走るよ!」
 それが何か確認するまでもない。
 イコはヨルダの手を強く握ると、橋の上を駆け―― 一瞬、その足が止まった。
 前方――橋の向こうで黒い影が舞い上がる。
 咄嗟にイコが戻ろうと踵を返したところで橋の手前で現れた影が迫り来るのが見えた。
 前も後ろも、両方から迫る自分たち以外の音、色――存在。
 ――挟まれた!
 戻っても進んでも変わらない、なら。
 イコは再び走り出す。来た道ではなく、まだ見ぬ道――前へ向かって。
 遠かった漆黒が目の前へと迫ってくる。立ち塞がる影の横をイコは無理矢理すり抜けようとした。すり抜けざま、ヨルダに黒い影が巻きつくように伸ばされ、強く引かれた。
 繋いだ手が一瞬外れる。
 瞬時に振り返るや否や、イコはヨルダを避けるように影に剣を叩き付け、影がひるんだ隙にヨルダの手を取り一気に橋を駆け抜けた。
 しかし橋を渡った所で、別の影に立ち塞がれ、背後からはやり過ごしてきた影たちが迫ってくる。
 橋を降りてすぐの場所にも黒い淵があった。正面から迫ってきた影たちはここから出てきたのだ。
 橋を渡り終えた後の通路も決して広くなかった。橋を渡ってすぐ目の前に上り階段があったが、影を避けた弾みにその隣の地続きの通路を側に出てしまった。この通路も崖をぐるりと巡るものだったらしく、奥にアーチ状の柱が見えた。しかし、こちらも崩落した城の残骸がアーチ状の柱の手前で道を塞いでしまっており、袋小路となっていた。
 橋の上も幅が無かったが、落下防止の手摺はついていた。しかし橋を渡った先の通路には、橋の手前の通路と同じく崖の反対側には手摺がついていないため、足を踏み外したり影に殴り飛ばされでもすれば、霧で朧にかすむ海面までまっさかさまに落ちてしまう。
 イコはなるべく壁により沿うようにして影と対峙した。足元と、前後から迫る影たちに油断なく目を配りながら、イコは逃げ切ることができそうな道を探す。
 断崖の向こう――城内部へ通じる出入り口は壁沿いの階段を上った先にあった。
 ――なんとかあそこへ……!
 イコはヨルダを庇いながら階段を上ろうとするが、影たちに徐々に通路の奥へと追いやられてしまった。
 背後と、片側は壁に遮られ、反対の片側は海へ続く虚空。そして唯一空いた正面からは青白い光を灯した漆黒の影たちが、あるものは不吉な足跡を残しながら、あるいは羽ばたきを響かせながら近づいてくる。
 こうなったら、と腹をくくり、ヨルダを一番奥へ押し込めるように背後にやり、イコは影たちに向かって剣をまっすぐ構えた。



 襲い来る影たちが見えなくなり、足元の黒い淵が蒸発するように漆黒の煙を立てて空気に溶けていく。
 イコは、ふう、と息を吐いた。構えられていた剣がゆっくり下ろされる。
「ヨルダ、だいじょうぶ?」
 いまだ緊張の残った身体を動かし、背中を振り返ると背後に守っていた少女に声を掛けた。
 こちらもやはり慣れないのだろう固い表情だったヨルダの目が、ふ、と柔らかく細められる。引き結ばれていた口許がわずかに綻び、微笑が浮かんだ。
 それを目にして、イコはもう一度、今度は深く息を吐いた。身体中の余分な強張りを吐き出すような深い――安堵のため息だった。
「じゃあ、いこう」
 そう言って、イコはごく自然に手を差し出す。そこに、変わらぬたおやかさでヨルダの繊手が重ねられる。
 手を取り合い、ふたりは階段を上ると再び城の内部へ入っていった。



 地面はすぐに崖をくり貫いただけの岩盤がむき出しになった道へと変わり、周囲は洞窟内部のような様相へと変化した。聞こえてくるのは吹き込む風の唸り声、そして水の落ちる音とガタン、ゴトン、と一定の拍子で鳴り響く重々しい機械音。たくさんの歯車が動き続ける広大な空洞に戻ってきたのだ。途中、岩盤に申し訳程度の柵を設けただけの道から石畳の立派な通路を渡りつつ、空洞内を道なりに進むと再び外に出た。地面は再びむき出しの岩盤に変わっている。
 岩盤の道を少し進むと道はいったんそこで途切れ、下の方に崖沿いに伸びる石畳の通路が見えた。梯子が掛かっているわけでもないので、通路に降りるならば飛び降りるしかない。
 イコがちらりと隣を窺うと、視線に気付いたらしいヨルダと目があった。
「えーと……したに、おりるんだ。だいじょうぶ?」
 イコは下の通路を指差し、身振り手振りを交えて尋ねる。何とか通じたらしく、下とイコとを見比べるように交互に視線をやっていたヨルダは、視線をひたと合わせて頷きを返した。
 ふたりはできるだけ落ちるぎりぎりの端に立ち、「せーの」というイコの掛け声と一緒に飛び降りた。かなりの高さがあったが、イコもヨルダも転ぶことなく綺麗に着地できた。
 更に石畳の道を右に進むと、崖と外に立つ建物らしき一角に挟まれた大きなゴンドラが目に入ってきた。
 ――なんだろう?
 恐る恐る、イコはまず一人で乗ってみた。
 ゴンドラは正方形をしており、真ん中に柱のような軸があった。軸の上から伸びる四本の鎖は、それぞれゴンドラを囲む手摺の四つ角に繋がっていた。床には床幅いっぱいの直径を誇る円盤が座している。更に、イコの腰ほどの高さで、中央の軸から一本の長い取っ手が突き出ていた。しかし、こういった乗り物でよく見かけていたレバーだけが見当たらない。
 ゴンドラ自体はかなり大きなものだが、取っ手が邪魔であるため、あまり広いと感じられない。
 この取っ手はなんだろう、と軽く押してみると動きそうな気配がある。重い手ごたえに、腰を落として取っ手を押してみると、ぐぐ、とゆっくりであるが確かに動く。そのまま動かしていけば慣性の法則か、徐々に取っ手は動かしやすくなっていき――
 ガタンッ、と音を立ててゴンドラの入り口が閉ざされた。入り口だった部分は鉄板に塞がれている。
 軸を中心に取っ手を回すにつれて、ゴンドラがゆっくりと上昇を始めたのだ。
 上下に動き出した景色に、ぎょっとして思わずイコの動きが止まる。すると、ゴンドラも動きを止めた。
 まさかと思い、逆手に持ち替え、引っ張るようにして取っ手を先ほどまでとは反対方向に動かす。
 すると、ほんの少し上昇していたゴンドラは下に降り、完全に下がりきるて再び動きを止めた。取っ手も、つかえたようにその方向では動かなくなる。同時に、ゴンドラの出入り口を塞いでいた鉄板が降ろされた。
 ――もしかして……。
 更にもう一度、同じ動きを繰り返したイコはこのゴンドラはレバーなどスイッチになるものがあるのではなく、手動で動かす仕組みだと理解した。
 面倒くさいといえば確かにそうだが、突拍子もない場所にスイッチがあるよりよほどわかりやすい。
「ヨルダ、のって。こっち」
 イコはヨルダをゴンドラに上げると、取っ手を回す動きに影響されない角に立たせ、取っ手を動かし始めた。
 ふたりを乗せ、ゴンドラはどこまでも上昇していった。




ICO room