18.東の崖
新たに開かれた門をくぐった先で広がる景色に、イコは目を瞬かせた。
外壁から城の内部へ入るとそこは露台になっていた。真っ先に目に入ってくるのは引き上げられた跳ね橋だ。ぐるりと首を巡らせると、隣や向かいに見える露台にも引き上げられた状態の跳ね橋がある。下を覗き込めば、中庭とそこを囲む回廊が見える。
ここは正門へと続く、跳ね橋の並んだお城の玄関だった。
「こんな風につながってたんだ。そうすると…………」
しばし難しい顔で考え込んでいたイコは、知らないうちに詰めていた息を大きく吐き出すと、
「――やっぱりよくわかんないや」
ぽつり、と呟いた。
これまで辿ってきた道のりを思い出し、城の構造を少しでも把握しようとして――結局できなかったのだ。
呟いた自覚はなかったのだろう、その声が良く聞こえなかった――聞こえたとしても言葉が通じないのだから意味はわからないだろうが――ヨルダが顔を寄せてくると、イコはばつの悪い笑みを浮かべ、有無を言わさずヨルダの手を取った。
「な、なんでもないよ。それよりはやく行こう!」
先ほど周囲を見渡した時、露台の左奥の壁に出入り口が開いていることに気付いていた。
跳ね橋は引き上げられ渡ることができないから、道はそこしかない。
イコは迷いのない足取りでそこに向かった。
一歩出入り口の向こうに出た途端、風が強く吹きつけてきた。
広がる青空と、断崖の向こうに見える深緑。
途中で左に折れ曲がった長く伸びる回廊。
屋上で目にした城壁の回廊、そこに出たのだった。
右側に視線を向けると、下方に固く閉ざされた巨大な正門が見えた。正門を挟んだ向かいには、同じように長く伸びる城壁の回廊があり、しかしふたりがいる回廊とは対照的に、途中で右に向かって折れ曲がっていた。
どちらの回廊も行き着く先に、切り立った崖の上に建てられた離れのような建物がある。
長く続く一本道。
少年と少女は手を繋いだまま回廊を奥へと進んだ。
離れの建物の入り口と思しき所にも、うずくまる角の生えた子どもの石像があった。これまでと同じように、ヨルダから放たれた光によって石像が動き――
「――ヨルダ!?」
入り口が開くやいなや、建物の中へと駆け込むヨルダにイコは目を瞠った。思わず呆けてしまった間に白い輝きは建物の中へと消える。
「ちょ、ちょっと待って!」
イコも慌ててその後を追い駆けていった。