2.倉庫
たくさんのカプセルがあった部屋を抜けた先は、薄暗い倉庫だった。
火を灯された松明があたりをぼんやりと照らしている。パチパチと火のはぜる音が聞こえ、木の燃えるにおいが鼻につく。
結局ここで行き止まりなのだろうか、とイコは落胆のため息が漏れそうになった。
一応ぐるりと周囲に視線を走らせる。すると、天井から吊るされている一本の鎖と、二階部分に相当する高さに取り付けられた窓が目に入った。明かりの漏れるその窓は、少年が通り抜けるくらいはできそうな大きさだ。ガラスも何もはめ込まれていない窓のすぐ下には足場がある。
鎖にだったら飛び上がれば掴まることができるかもしれないが、さすがに足場のある所に飛びつくことはできそうにない。鎖を上っても、手を伸ばして届く範囲まで足場は伸びていない。
――だったら、鎖を揺らして足場に飛び移ることはできないかな。
イコは、さっそくその考えを行動に移した。
まずは鎖に飛びつく。その振動で小さく揺れる鎖を上ることは少し骨の折れることだったが、程なくして少年は足場に飛び移りやすそうな高さまで上ってきた。
今度はしっかり鎖を掴んだまま、足を振り動かし、全身を振り子として足場に向かって鎖を大きく揺らした。何度も揺らす内に少しずつ鎖の揺れは大きくなっていくようだった。頃合を見計らって、鎖から手を離し足場に向かって飛び移る。最初のうちは上手くいかず、足場の縁を何とか掴んだものの思わず手を離してしまったり、と失敗の連続だったが、やがて身体が動きを覚えてくると楽々と飛び移れるようになった。少々、勢いが良すぎて壁にぶつかり、鼻や額を赤くしてしまったけれど。
そして窓の縁に手をかけ身体を乗り上げる。
イコは窓の向こう側へと身を躍らせた。
イコは最後まで気付かなかった。
『誰もいない』と言われるこの霧の城で、どうして松明が灯っているというのか。
『誰か』の手によらなければ起こりえるはずのないことなのに。
イコは知らない。
その先に待ち受けるものを。
それこそが、運命、と呼ばれるものなのか。
そしてイコは辿り着く。
夢で見た、あの場所へ。